5月6日
カーテンからもれてくる朝の光、それと体にかかる重たさで目が覚めた。
まだ少しぼぅっとする頭で、その心地の良い重量感を確かめる。
右側には、俺の腕を枕にして抱き合っている珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんが。
左側には、俺の体に寄り添うイルファさんが。
3人とも、昨日の晩愛し合った時と変わらない、裸のままの姿で可愛らしい寝息を立てている。
そんな3人の様子に、俺は、なんだかとても満ち足りたような気持ちになった。
あの晩、お風呂場ではじめて、イルファさんや、珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃんと一つになれた夜からずっと。俺は珊瑚ちゃんの家に泊まりこんで、毎晩3人とエッチし続けた。
我ながら凄いことをしているなぁ、なんて苦笑しそうになるけど。
毎晩珊瑚ちゃんの体を抱きしめるたびに。
一回、瑠璃ちゃんと唇を合わせるたびに。
イルファさんと一つになる回数が増えれば増えるほど、3人のことが愛おしくなっていったのがわかった。
多分、3人も俺と同じ気持ちでいてくれたんじゃないかな。
・・・・・・わ、若さに身を任せて暴走していた、っていう面が無いわけじゃないってことは、否定しないけど。
3人を起こさないように、そっとベッドから起き上がる。
ベッドの上や、部屋のあちこちに散乱した服をかき集めて──何でエッチしている最中は裸でも気にならないのに、普段普通にしているときに裸だとこんなに恥ずかしいんだろう・・・・・・いや、エッチの最中でも、恥ずかしい物は恥ずかしいか。
特に瑠璃ちゃんなんか、見られると耳まで真っ赤にして恥ずかしがってくれるし。
なんだかとても幸せな気分に浸りながら、冷蔵庫のドアを開けてミネラルウォーターのボトルを開ける。
昨日あれだけ汗をかいたものだから、起きたときから喉が渇いて仕様が無い。冷たい液体を喉に流し込んで、ようやく意識もはっきりとしてきてくれた。
3人とも、未だに起きる様子は全く無い。
空調がきいているから風邪を引く心配(イルファさんの場合は故障の心配になるのだろうか?)は無いけれど、美少女3人が無防備な寝姿を、しかも裸で晒しているというのは。
確かにちょっと、落ち着かない・・・・・・
特にイルファさんが「・・・う、ん」って寝返りをうったり、瑠璃ちゃんが「アっ、んっ・・・」なんて寝言を言った日には、朝だって言うのにとてもイケナイ気分になってしまいそうで・・・・・・
落ち着け落ち着け、落ち着けよ河野貴明。
一体お前は何を考えている?
いくら3人がぐっすり眠っているからって、その隙にイタズラしようなんて微塵も考えちゃいけないんだからな?
わかったか? わかったな? よし、上出来だ。
なら次はテレビでもつけて、気を紛らわせるんだ。
大慌てでボリュームの絞ったテレビのスイッチを入れると、時報に続いてお馴染みの朝のニュース番組が始まるところだった。
映し出される、爽やかな朝の青空をバックにした駅前の様子。
天気もいいし、今日は4人でどこかに遊びに行くのもいいかな。折角のゴールデンウィークなのに、どこにも出かけないんじゃ勿体無い、なんて考えながら、テレビを見続ける。
でもサラリーマンの人も大変だよなぁ。折角のゴールデンウィークだって言うのに、こんな朝早くから出勤しなきゃならないんだから。
そこまで考えて、なんとなく違和感を感じてしまう。
なんだか、とても、思い出さなきゃ行けないことを忘れてしまっているような・・・・・・
テレビの中では、相変わらずのニュースキャスターの挨拶が『おはようございます。5月、6日、朝のニュースをお伝えします』
「あああーーーーーーーーーーー!!」
慌てて3人の眠るベッドに戻る。
「さ、珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃん、起きて、起きてー!!」
ガクガクと珊瑚ちゃんの体をゆすると、ようやく少しだけ目を開けてくれた。
「んー、貴明、朝からあまえんぼさんやなぁ。そんなに寂しがらんでも、今日もいーっぱい、ラブラブしような」
「無理、だって今日5月6日、連休終わり、今日からがっこーーーー!!」
「が、学校ぅぅっ!?」
瑠璃ちゃんが跳ね起きた。
「あ、あかんやん、急いで支度せんと・・・・・・あ」
「え・・・・・?」
瑠璃ちゃんは、慌てて何も着ていない体を隠そうとする。
続いてパンチが飛んできた。やっぱり恥ずかしいらしい。
「ヘンタイ、ヘンタイ、ヘンタイーっ!」
「うわっ、ちょっと、瑠璃ちゃん、それどころじゃないってば」
真っ赤な顔でこっちを睨んでいるけど、とりあえず俺に照れ隠しをしている場合ではないってことはわかってもらえたようだ。
「瑠璃様、貴明さん。お食事のご用意は私がいたしますので。皆さんは先にシャワーを浴びて来てください」
と、こちらはいつの間に行ってきたんだろう。シャワーを浴びて服に着替えたイルファさんがキッチンへと駆けていく。
確かに昨日エッチしたまま寝たものだから、体中汗やいろんな物でベタベタして気持ち悪い。
瑠璃ちゃんも一足先に、まだ半分眠っている珊瑚ちゃんを連れてバスルームに向かっている。俺も急いで後を追うけど・・・・・・今度は蹴飛ばされた。
お風呂なんてもう何回も一緒に入って、一緒にエッチしているのに。やっぱり恥ずかしいらしい。女心は複雑だ。
2人を待ってシャワーを浴びた後、バスルームの前にはなぜか俺の制服が用意されていた。
イルファさんに聞くと、この間俺の家によった時、下着や着替えなんかと一緒に持ってきてくれていたそうだ。
確かにゴールデンウィーク中、珊瑚ちゃんの家にずっと泊まるっていうことになったんで、イルファさんに手伝ってもらって荷物を一通り家まで取りに行ったけど。
なんで制服まで持ってきたんだろ? まあ、おかげで助かったからいいけど。あ、アイロンまでかけてある。
洗い立ての制服に着替えて、イルファさんが作ってくれたトーストとサラダの簡単な朝食を大急ぎで咀嚼する。
珊瑚ちゃんもようやく目が覚めてくれたようで、こちらも瑠璃ちゃんともどもトーストを慌てて口に入れていた。
「そ、それじゃあ行ってきます」
玄関を出ようとすると、イルファさんに呼び止められた。
「あ、何か忘れ物でもしてた?」
「はい、大切な物をお忘れですよ」
さて、何だろう? カバン(これもイルファさんが持ってきてくれていたらしい)ももったし、ちり紙やハンカチもポケットの中に入っているし。
「ちゅー」
「ちゅう?」
「はい、いってきますのちゅーをお忘れです」
ああ、そりゃ確かに大切な物を忘れるところだった。学校に行くんだから、その前にはちゃんとちゅーをしてから出て行かないと。
ん? なにかがおかしいような・・・・・・まあ、いいか。
イルファさんとたっぷり一分は掛けていってきますのちゅーをした後、珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんも同じく行ってきますのちゅーをする。
うん、これでよし。
「じゃ、今度こそ行ってくるね」
「はい、貴明さんも瑠璃様も珊瑚様も、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
3人とも、大急ぎで道路を走っていく。珊瑚ちゃんは大分辛そうだったけど、瑠璃ちゃんに手を引かれて何とか付いていく。
むしろ問題だったのは俺の方で、どうも足腰に力が入らない。気を抜くと腰が抜けそうになってしまう。
俺、そんなに体力無かったかな。
それでも何とか、時間までにいつもの坂の下まで到着することができた。
既にこのみたちは到着してたみたいで、坂の入り口の所で俺たちのことを待っていてくれた。
「お、おはよう。ごめん、待たせた。ちょっと寝坊しちゃって・・・・・・あれ?」
俺たち、と言うよりも俺を見る3人の様子が普通じゃない。
特にタマ姉の目が尋常じゃない。お、俺、なんか変なところでもあるのか? 例えて言うのなら、今までのが初々しいカップルをからかうような目だとしたら、今のはまるで子供の給食費までお酒に代えてしまうようなダメオヤジを見るような視線だ。
「タカくん」
「あ、このみ、おはよう。悪かったな、待たせちゃって」
「うん、おはよー。それでね、タカくん、ちょっとだけ、聞きたいことがあるんだけど」
このみまでなんだか歯切れが悪い。
俺、本当になにかしただろうか。
「ゴールデンウィーク中、タカくんどこに行ってたの? お母さんからは家を空けるって連絡があった、って聞いたけど。昨日もずっと家にいなかったし」
ゴールデンウィーク中? そりゃ、珊瑚ちゃんの家で・・・・・・あ。
「あんなー、貴明ならずっとうちの家で一緒にいたでー☆」
ささささ珊瑚ちゃん、シーッ、シーッ!
「ふーん。そのこと、もう少し詳しく聞かせてもらえないかしら」
「うん、貴明とうち、ゴールデンウィーク中ずーっと、ラブラブしとったー☆」
「わーっ! わーっ! なんでもない、なんでもないから!!」
必死に誤魔化そうとするけど、今度は逆に珊瑚ちゃんの表情が曇ってしまう。
「貴明、やっぱりうちらとするの嫌だったん?」
「そんなことは無いよ。俺は珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃんのことが大好きだったから、一緒になったんだから。そのことは珊瑚ちゃんが、一番よく知っているはずだろ?」
でもね、天下の往来で大声で言うようなことでもないと思うんだ。
みんなもそう思うでしょ、ねえ?
「タカ坊、ちょっと」
お、お姉様、そのこめかみをぴくぴくとさせながら手招きをするのはなぜなのでしょうか?
そ、そうだ。瑠璃ちゃん、こういうピンチの時はいつも瑠璃ちゃんの助けが!?
「・・・・・う、うちも、貴明のこと、嫌いやなかったから、だから・・・・・・」
なんでそこで顔を赤くしてうつむいていますか!?
「タ〜カ〜ぼ〜お〜?」
い、いや、タマ姉、これには深いわけがあったでして、けしてやましい気持ちで珊瑚ちゃんたちとエッチしたんじゃなかとですよ?
「問答、むよっ」
タマ姉の平手が振り下ろされようと言うまさにその瞬間だった。
「貴明さーん」
「い、イルファさん!?」
俺のことを呼ぶ声に、振り上げられたては寸前の所で動きを止めてくれる。
「や、やっと追いつきました」
ギロチンの刃が落とされる寸前の俺を救ってくれたのは、手に風呂敷包みを持ったイルファさんだった。
「いっちゃん、そんなに急いでどうしたん?」
「はい、こちらをお渡しするのを忘れてしまって」
そう言ってイルファさんが渡してくれたのは。
「これ、お弁当?」
「はい。時間が無かったのであまりちゃんとしたものは作れませんでしたが。どうぞ3人でお昼に召し上がってください」
「わー、いっちゃん、ありがとな」
「ありがと」
たったあれだけの時間に重箱でお弁当を作るだなんて。やっぱりイルファさんはさすがだな。珊瑚ちゃんも瑠璃ちゃんも、大喜びでお礼を言っている。
「ありがとう、イルファさん」
「なあ、貴明。こちらの女性はどなただ?」
と、横から雄二が聞いてきた。
こいつはこいつで、さっきから挙動が不審だ。
「貴明さんのご友人の方ですか?」
そんな雄二の様子に気付きもしないイルファさんは、丁寧にお辞儀を返す。
「申し訳ございません、紹介が遅れました。私、“イルファ”と申します。正式名称、HMX−17a。そちらにいらっしゃいます珊瑚様のプライベートロボット、だったのですが」
「「「が?」」」
「今では、その、貴明さんの、恋人といっていただけましたら」
「恋!?」
「人!?」
この姉弟、こういうときは息ぴったりだな。
「あ、いますぐにそう呼んでいただかなくても、将来的にそうなりたいというだけですし。あっ、でもお互い、はじめてを捧げあってしまいましたし、何の差支えも・・・・・・
い、イルファさん、クネクネしながらそう言うことを公衆の面前で言わないでください。
あと、照れて声を小さくするのならもっと小さな声で!
「で、でもタカくん。イルファさんと恋人になっちゃったら、珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんはどうなるの?」
「だからな、うちと瑠璃ちゃんと、いっちゃんと貴明、4人みんなでラブラブやー☆」
珊瑚ちゃーん、あなた、今、俺の死刑執行書にサインをしたということをわかっていますか?
「タカ坊」
「は、はイッッ!!」
もう、じたばたするのはやめます。
ここでタマ姉の手にかかって果てることが、珊瑚ちゃんたちへの想いの証明となるのなら。俺は甘んじてこの身を差し出します。
「このっ、女性の敵がぁっ!!」
まず最初に、視界が暗くなったと思ったら、次に来たのはこめかみへの激痛。
そして足の裏から地面の感触が消えて。
「われ、われっ、われるあいだだだだだぁあ゛―――――――」
雄二のやつ、こんなの毎日喰らっててよく死なないなぁ。
「ギブ、タマ姉ギブギブ、あ゛、われる゛―――」
頭蓋骨が割れそうなタマ姉のアイアンクローを受けて。
まあ、それでも、珊瑚ちゃんや、瑠璃ちゃんや、イルファさんと一緒にいられるのなら、これくらい安いものかな。
「あ゛――――――!!」
終