クマ吉と一緒にNo3

「で、たかあきー、その後、何か進展はあったのかぁ?」


 坂の途中、そろそろ校門が見えてきそうなところで、雄二がいきなり聞いてきた。
 しかも顔にはいやらしいくらいの笑顔を貼り付けて。


「進展って、何のことだ?」


「またまたー、とぼけちゃってこのー。この間言ってた、クマのロボットのことだよー」


「あのな、ロボット相手に進展も何もあるわけがないだろ」


 いや、仲良くなったといえば、仲良くなれたのか?
 でも雄二が期待してるようなことは何もないので、この際黙っておく。


「うん、ロボット相手にはそうだろうなー。でもよー、その持ち主とはどうなのかなー?」


 持ち主?


「お前がー、放課後のコンピューター室で、女の子と2人っきりでいたのを見たやつがいるんだー。ロボットとかなんとか言っちゃって、本当はその子と会うのが目的だったんじゃないのかー? 隠すことないだろ、照れちゃってさー」


 あ、あぶなっ!?
 雄二のやつ、本気で殴ってきやがった。め、目が笑ってないぞこいつ。


「危なくお前に騙されるところだったぜ・・・・・・ロボットをデコイに使って女の子を独り占めするなんて。どこでそんな高度な戦術を身に着けやがった!? 紅茶好きの宇宙提督に弟子入りしたとか言うんじゃないだろうなっ!!」


 い、意味わからないし!


「あぶな、って、やめろって。そりゃ全部お前の妄想だっ! コンピューター室に行ったのはクマ吉に会うためだし、2人っきりじゃなくてそこにはクマ吉もいた。そもそも俺、その子の名前だって知らないんだぞ」


「ようやく認めたなこの恋愛独占企業家め。しかも両手に花だったって言うのかよ!」


 だ、だめだ、こいつ聞く耳持ってない。
 早く、早く校舎の中へ。後は衆人監視の中で暴挙に及ぶほど、こいつの常識が磨耗していないことを祈るしか。
 本気の殺意を目に秘めた雄二を置いて、慌てて坂を駆け上がる。よし、校門さえくぐれば何とか逃げ切れ──


「わぷっっ!?」


 突然目の前に何かが覆いかぶさった。
 慌てて振りほどこうとするけど、俺の顔に張り付いた何かは、がっちりと俺の頭をホールドしている。
 なに、何!? これはもしかしてエイリアン? それとも石仮面!? 俺、吸血鬼になっちゃうの!?
 けれど顔に当たる感触は、ゴミや生物にしてはいやに毛むくじゃらで、落ち着いて暴れるのをやめるとホールドする力も弱くなってきた。
 ゆっくりと顔に手をあてて、覆いかぶさっている何かを引き剥がしてみると。


「・・・・・・クマ吉」


 俺の手に掴まれて、クマ吉は「おはよう」とでも言いたげに片手をあげる。


「・・・・・・おはよう、クマ吉。で、何でお前は急に、俺の頭に抱きついてきたりするんだ?」


 クマ吉は照れて答えようとしない。俺に首根っこを掴まれたまま、空中に“の”の字を書き始める。
 多分俺が来るまで、ずっと校門の上で待ってたんだろうな。跳びかかるタイミングを計りながら。
 えーっと、なに、頭の上にお団子二つ? あ、コンピューター室にいた女の子か、に? お願いしたら? 朝から自分を動かしてくれるよう、頼んでくれた?


「で、朝からずっと俺のことを待っててくれたわけだ・・・・・・ありがとよ」

 俺は脱力しながらそう言うと、クマ吉は嬉しそうに胸を張る。
 ま、その気持ちだけは嬉しいかな。
 その後クマ吉は、腕を伝っていつものお気に入りの場所。俺の頭の上に。


天誅ーっ!!」


 や、やばい雄二のこと忘れてた。


「クマ吉、走るぞ、振り落とされるなよ」





 ・・・・・・クラス中から突き刺さる視線が痛い。
 原因はわかっている。俺の頭の上にいるクマ吉のせいだ。誰も彼もが気にしながら、俺に何も声をかけてこないのは、どう声を掛けるべきなのか量りかねているからだろう。
 実際、俺も隣の席のやつの頭にクマのぬいぐるみが置いてあった場合、まずは正気を疑うところからはじめるね。そいつと自分、両方の。
 でもさ、仕方ないじゃん。クマ吉のやつどう説得しても頭の上から降りてくれようとしないんだから。
 今も俺の頭の上で、ちょっと前はやった溶けたパンダみたいなポーズで寝そべっている。
 ガラガラと教室の扉が開く音。
 ああっ、とうとう先生来ちゃったよ。
 先生はまず、クラス中に漂う緊張感に眉をひそめ、続いてその緊張の中心に俺が居ることを確認し、そしてギョっと目を剥いた。
 で、できることならこの場から逃げ出したいっ。
 先生も周りのクラスメイトと同じように、俺になんと声を掛けるべきなのか悩んでいる様子だった。
 けれどそこは年の功。できるだけ言葉を選びながら、クラスみんなの疑問を代弁する。


「あー、河野。お前の、頭の上のクマ、それは何か。新しいファッションか?」


 俺が何か悪いことをしましたか。頭の上にクマを乗せているのは、ここまで居たたまれない仕打ちを受けるようなことなんですか。
 空気になりたい。
 俺もなんと答えればいいものやら悩んでしまう。正直に言おうか「このクマのぬいぐるみ、俺に懐いちゃって。頭の上から離れようとしないんですよ。困ったやつですあははははは」。
 黄色い救急車一直線だ。
 永遠に続くかと思われたこの緊張。それを破ってくれたのは教室の扉をノックする音だった。


「あの、先生、ちょっと」


 扉の外で、先生どうしがなにやら話ごとをはじめる。時折、俺のことをちらちらと振り向いて、また話を続けた。
 俺は(たとえ数分間だけでも)問題を先送りできたことに対して安堵の溜息を吐いた。くそっ、クマ吉のやつ、こっちの苦労も知らないでのんきに寝そべりがって。
 とうとう話も終わったらしい。けれど教卓のところに戻ってきた先生は一言


「河野、お前一体なにをしたんだ?」


 とだけ言うと、まるで何も無かったかのように授業を始めてしまった。
 え、俺、なんかした? こっちが教えてもらいたいくらいですよ・・・・・・





 チャイムが鳴って、ようやく午前中の授業が終わってくれた。真綿で首を絞められるような気分だった、とだけ言っておく。
 精神的に疲労の極地にあるような俺と違って、クマ吉は終始ごきげんな様子だった。
 のろのろとイスから立ち上がり、食堂へと向かおうとする。
 途中、雄二の目が「大変だな」といっているのがわかった。笑いをこらえながら。
 くそっ、人事だと思って。
 しかしそうなると、学食で暢気に食べるという選択はやめておいた方が良さそうだ。教室だけでもこうなのに、学食でまでこんな視線にさらされながら食が進むほど、俺の神経は太くない。


「クマ吉は、何か食べたい物あるか?」


 クマ吉はふるふると首を横に振る。
 ま、そうだよな、と俺は苦笑しながら、一応、聞くのが礼儀ってやつだろ。
 売店に到着すると、そこはもう黒山の人だかりで埋まっていた。
 いつもならチャイムと同時にダッシュしなければ行けないところを、ゆっくりと歩いてきたんだから当然だ。
 諦めて、売れ残りのパンでも買うか。
 そう思って壁の隅に寄ろうとすると。


「ん? どうしたクマ吉。え? お前がパンを買ってきてくれるって?」


 クマ吉は、任せろとでも言いたげに胸を張った。
 でもなぁ・・・・・・
 売店の前に群がる人の波は、俺でも突入するのにためらいを覚えてしまうような物だ。そこに小さいクマ吉が入っていっても、踏まれて怪我をするのがオチじゃないだろうか。
 けれどクマ吉のやつは、あくまで自信満々で。


「・・・・・・じゃ、お願いしようかな。けど、危なくなったり無理だと思ったら、すぐに引き返すんだぞ。お前が怪我したんじゃもともこもないんだから」


 承知したという風にうなずくクマ吉。
 俺がお金を渡すとクマ吉は、俺の頭の上から売店の前の人だかりに向かって


「おおっ!?」


 クマ吉はパンを買おうとする人たちの頭から頭へとジャンプしながら、売店へ近づいていく。その姿はさながら、船から船へと飛び移る義経の八艘跳び!
 あっというまに売店の窓口までたどり着いて見えなくなってしまった。
 凄い、凄いぞクマ吉。
 次クマ吉が人の頭の上に出てきた時には、手にパンの袋を持っていた。
 そして再び、人の頭の上を飛び跳ねて俺のところに戻ってこようとする。
 けど持っているパンの重たさでバランスを崩して──


「クマ吉っ!!」





「そんなに気にするなって」


 クマ吉を頭の上に載せて、屋上へと階段を登っていく。
 売店の前でバランスを崩したクマ吉をみたとたん、俺は人ごみの中に体を向けていた。
 必死になって周りの人間を掻き分けて、クマ吉が落っこちたあたりにたどり着いてみると、クマ吉のやつ、自分がもみくちゃにされてひどいことになってるのに、買ったパンだけは放そうとしてなかった。


「ちょっとだけ形が悪くなったけど、味は変わらないし」


 ただその時に、パンが潰れてしまったことがクマ吉には許せないらしい。


「それに、お前が一生懸命守ってくれたパンなんだから。ありがとよ、クマ吉、今度は失敗しないように頼むな」


 そう言うと、少しだけ元気を出してくれた。
 うん、落ち込んでるクマ吉っていうのは、どうにも落ち着かない。やっぱりクマ吉は、賑やかでいてくれたほうが良いとおもう。


「ああ、失敗しても、またさっきみたいに助けて、え? 大丈夫だって? 強がるなって。それに一応俺も男なんだから、女の子のクマ吉を助けてやるのが当然だろ」


 たとえクマでも、一応は女の子には違いないし。とは言わないでおく。
 そんな風に頭の上のクマ吉と話をしながら歩いていて、階段の角を曲がった時だった。


「んぷっ?」


 曲がったところで、何か柔らかい物に顔を挟まれた。
 感触は、マシュマロというか、ふかしたての肉まんと言うか・・・・・・まさか、これ・・・・・・


「あらタカ坊。なーに、お姉ちゃんのことが恋しくなっちゃった?」


「た、たたたた、タマ姉!?」


 慌てて飛び退くと、目の前ではタマ姉が満面の笑みを浮かべて立っている。
 じゃ、じゃあ今の感触、もしかして・・・・・・もしかしなくても。


「でもタカ坊、ちゃんと前を向いて歩かなきゃだめよ。ぶつかったのが私だったからよかったけど、他の人間だったらチカンあつかいよ」


 タマ姉はどこまでもにこやかだけど、俺の心境はまるで蛇に睨まれたカエルだ。
 いくらクマ吉と話すことに気を取られていたからって。よりにもよってタマ姉の、しかも胸のところにぶつかるなんて・・・・・・俺、一体どうなっちゃうんだろう。


「ん、ああ、クマ吉、どうした」


 クマ吉が俺の髪の毛を引っ張って何かを聞いてくる。
 どうも、目の前の女が誰かと、そう言いたいらしい。


「えっと、この人は向坂環。俺の幼馴染で、姉みたいな人」


 内心の動揺をどうにか悟られないよう、できるだけ平静を装ってクマ吉に紹介するけど。うっ、やっぱり隠し切れなかっただろうか。クマ吉のやつ、黙り込んじゃったよ。


「あら、タカ坊。その頭の上の。それが前言ってたクマのロボット?」


「ああ。直接会うのは初めてだっけ? こいつはクマ吉。本当はみっちゃんって言う名前らしいんだけど、クマ吉って呼んでる。ほらクマ吉、挨拶は」


 でもクマ吉は黙り込んだまま、頭の上で動こうとしない。
 おかしいな、人見知りするようなやつには思えないんだけど。


「はじめまして、クマ吉さん。タカ坊にも紹介してもらったけど、私の名前は向坂環。みんなにはタマ姉や、タマおねーちゃんって呼んでもらっているわ。よろしくね」


 タマ姉が挨拶をしても、クマ吉はじっとしたままだ。声は聞こえてるみたいなのに、おかしいな。


「クマ吉?」


「ところでタカ坊、お昼はもうとったの?」


 心配になってもう一度呼んでみたけど、クマ吉が何かを言う前に、タマ姉が声を掛けてきてしまった。


「いや、これから。天気もいいし、屋上で食べようかと思って」


「そう? それはちょうどよかったわ。朝、ちょっとお弁当を作りすぎちゃって、タカ坊、よかったら一緒に食べない」


「うーん、タマ姉のお弁当は食べてみたいんだけど、もう今日のお昼御飯買っちゃったし」


 そう言って、さっきクマ吉が買ってきてくれたパンを見せる。


「またパン? 毎日そんなものばっかり食べていたんじゃ、体壊しちゃうわよ。それにそのパン、形が崩れてボロボロじゃない。折角のお昼御飯なんだから、そんな物食べないで一緒しましょ。このみたちももう待っているわよ」


 強引に俺を引っ張っていこうとするタマ姉。その心遣いは嬉しいんだけど、今日はもう、クマ吉との先約があるから。
 そう断ろうとした時だった。
 今まで黙って俺の頭の上にいたクマ吉が、急に飛び降りると走ってどこかへいってしまう。まるで逃げ出すみたいに。


「お、おいクマ吉、待てよっ! タマ姉、ごめん。お弁当はまた今度」


 あっけにとられているタマ姉を置いて、俺はクマ吉を追いかける。
 あいつ、体は小さいくせに足だけは速い。ちょっと気を抜くとすぐにおいていかれそうだ。正直、昼飯を食べていない体にはきつい。
 昼休みの人気で賑わう廊下を、必死になってクマ吉と追いかけっこを繰り広げる。
 俺、一体なんでこんなことしてるんだろう。
 酸素が足りなくなった頭で、朦朧としながらそんなことを考える。心臓もパンク寸前だと抗議の声をあげる。
 クマ吉が何でいきなり走り出したのかはしらないけど、放っておけばいいじゃないか。あいつが突然な行動にでるなんて、いつものことだろ。


「でも・・・・・・追いかけ、なきゃ」


 だって、逃げ出す前にちょっとだけ振り向いたクマ吉。


「あいつ、きっと泣いてた・・・・・・」


 廊下を走りぬけ、階段を飛び降りていく。頑張ったおかげか、少しずつクマ吉との差も縮まってきた。
 あと、3歩──


「クマ吉っ!!」


 俺の叫び声に、逃げるクマ吉の体が一瞬だけ固まってしまう。全力で走っている途中にいきなり足を止めるものだから、バランスを崩して、正面には壁が。
 間に合えっ!!
 ヘッドスライディングの要領で転びそうになっているクマ吉を捕まえた。
 けど思いっきり飛びついたせいで勢いがとまらない。俺はクマ吉を抱きしめて、そのままゴロゴロと廊下を転がり、壁に激突してようやくとまることができた。


「あ、いててててて・・・・・・クマ吉!?」


 慌ててクマ吉を抱き上げると、観念したのか、クマ吉はもう逃げ出そうとはしなかった。


「よかった・・・・・・おい、クマ吉、大丈夫か? どこか故障してな、あいてっ、痛い、
やめろって、痛いからクマ吉」


 代わりに、俺の手からすり抜けるとポカポカとぬいぐるみの腕で俺のことを叩いてくる。見た目はぬいぐるみでも中身はロボットなものだから、結構痛い。


「なんだ、お前、俺のことを心配してくれてるのか?」


 そう言うと、今度は後ろを向いてしまう。
 素直じゃないな、クマ吉は。


「ありがとう。それと、ごめんな、心配掛けて、それに・・・・・・クマ吉の気持ちを傷つけちゃって」


 涙を流していなくても、多分今もクマ吉、泣いてるんだとわかった。
 それが悲しくて泣いているのか、それとも俺のことを心配して泣いてくれているのか、俺にはそこまではわからないけれど。


「お昼はクマ吉と一緒に食べるって、先に約束してたのにな。タマ姉にはちゃんと断ればよかったのに」


 クマ吉は後ろを向いたままだけど、フルフルと首を振ってくれた。


「ちょっと遅れちゃったけど、御飯にしよう。早く屋上に行こうよ」


 ようやくクマ吉が俺のほうを振り向いてくれた。おずおずとした動作だったけど、クマ吉がもう一度俺のことを見てくれて、俺は嬉しくなる。
 良かった、涙も止まってくれたみたいだ。


「え、こっちこそごめん、だって。お詫びがしたい? いいっていいって、そんなことしてくれなくても」


 けれどクマ吉は納得してくれない。
 どうしてもお詫びがしたいと言い張る物だから、俺も根負けしてクマ吉のお礼を受け取ることにした。


「えっ? こっちを向け?」


 クマ吉は俺の右肩に乗ってあれこれと指示を出してくる。
 こいつ、何する気だ?
 言われた通りにクマ吉のほうを向く。
 と、目の前にクマ吉の顔が──


 ふさっ・・・・・・


 唇に広がる、ちくちくとした生地の感触。
 え、これ、まさか・・・・・・
 俺の唇から顔を離したクマ吉は、なんだかとても満足そうだ。


「く、クマ吉・・・・・・」


 クマ吉は答えてくれない。
 えっと・・・・・・え、今のってま、まさか、キス!?
 混乱して頭がうまく働いてくれない。


「これが・・・・・・お礼?」


 ようやく小さく頷いてくれた。恥ずかしそうに。
 なんだかいろんな言葉が一気に溢れてきて、それを全部口に出して叫びだしそうになって
 ・・・・・・けど、やめた。
 おそるおそるこっちを見ているクマ吉の様子を見てしまうと、なんだかそんな言葉が全部、どうでもいい物になってしまった。
 まあ、いいか。一人くらい、ファーストキスがぬいぐるみな男がいたって。
 それでもなんとか声を絞り出して、これだけは言っておかなきゃ。


「ありがう、クマ吉、嬉しいよ」


 クマ吉の表情が一気に明るくなった、ような気がした。





 その後俺たちは、最初の予定通り屋上に行って一緒にパンを食べた。
 けれどクマ吉は、屋上にいる間中ずっと何かを考えているようだった。何度か話しかけても、全部上の空でまともに会話?ができない。


「なあ、クマ吉。本当にどうしちゃったんだ? え、タマ姉? タマ姉がどうかしたのか」


 クマ吉は必死に胸を突き出そうと頑張っている。


「鳩胸? え、違う? 胸。タマ姉。ばいーん? えっと、俺は、タマ姉みたいな、胸が、バイーンが、好き? って、何言ってるんだよ!?」


 そ、そりゃ好きか嫌いかって聞かれたら、俺だって男だし・・・・・・嫌いじゃないとは答えるけど。
 クマ吉はまるで「まかせろ」とでも言いたげに胸を張る。
 これも、クマ吉のお礼のつもりなんだろうか。


「あー、うん、嬉しい嬉しい。期待しないで待ってるよ」


 苦笑しながら、そう言って、2人で屋上をあとにする。
 午後からの授業。クラスからの視線は、ちょっとだけ、気にならなくなっていた。




   終


このSSは、以前ToHeart2SS専用スレに投稿した物に、加筆修正を加えた物です。